蕎麦屋訪問記 淡路町「かんだやぶそば」 〜火事のあと、冬のある日に〜
この前、久しぶりに淡路町の「かんだやぶそば」へ足を運んできました。
火事で焼けてしまったと聞いてから、もうずいぶん経つものですね。
燃える前に一度訪れたきりで、記憶もずいぶん霞んでいました。
それでも、「今のやぶそばはどうなっているんだろう」という小さな好奇心に背中を押されて、12月半ばの寒い日に、ふらりと淡路町まで出かけてみたのです。
店の前には、やはり人が並んでいました。
12月の蕎麦屋さんというのは、どこも賑やかなものですね。
それでも回転は早くて、10〜15分ほどで中へ入れてもらえました。
外観は、思っていたより昔のままの雰囲気が残っていて、なんだかほっとしました。
聞いていた通り、できる限り昔の佇まいを大切にしているのでしょう。
ただ、ひとつだけ気をつけたいのが整理券のこと。
入口を入ってすぐ右手の、少し奥まったところにタブレットが置いてあって、ぼんやりしていると通り過ぎてしまいそうになります。
私も一度、うっかり素通りしかけました。
店内はゆったりと広く、天井も高くて気持ちがいいです。
座敷もカウンターもテーブルもあって、ひとりでふらりと来ても、何人かで来ても、ちゃんと受け止めてくれる懐の深さがあります。
メニューには写真と丁寧な説明がついていて、海外からのお客さんへの心配りも感じられました。
寒い日だったこともあって、自然と日本酒に手が伸びます。
菊正宗を一合、ぬる燗で。
老舗の蕎麦屋さんといえば、冷や(常温)か燗かというところですが、こういう日はぬる燗がいちばん体に馴染みます。
お酒と一緒に出てくるそば味噌が、またよくて。
ちびちびと舐めながら、ゆっくりお酒を飲む。
急ぐことは何もありません。
蕎麦屋の時間というのは、こういうものだよなあ、とほっこりした気持ちになります。
この日は成り行きで、そば寿司も頼んでみました。
そういえば、ここで食べるのは初めてだったかもしれません。
しばらく待っていると、なかなか来なくて、「あれ、注文通っていたかな」と少し心配になった頃合いに、ちょうどよいタイミングで運ばれてきました。
なんだか少し恥ずかしくなりますね。
中身は玉子焼きとかんぴょうという、ごくシンプルなもの。
脇には紅しょうがが添えてあって、わさびではないのが、ちょっと面白い。
それよりも何よりも印象的だったのが、海苔なのです。
香りがふわりと立って、磯の匂いがはっきりと感じられました。
正直なところ、中身よりも海苔の存在感のほうが強く記憶に残っています。
こういう「あ、そっちが主役だったか」という小さな発見が、蕎麦屋巡りのひそかな楽しみだったりします。
お酒も空になって、外にはまだ列が続いています。
そろそろ締めにしようと、せいろを一枚。
量は控えめ。
しっかり食べたい方には物足りないかもしれません。
でも、この店でそういう食べ方をするのはなんとなく違う気がして、それはそれでいいなと思っています。
蕎麦はやや緑がかっていて、見た目に涼やかさがあります。
クロレラをブレンドしているのだそうです。
薬味のねぎは驚くほど細くて、思わずじっと見てしまいました。
よくここまで丁寧に刻めるものだなあ、と。
つゆは思っていたより甘めで、少し意外でした。
「やぶは辛口」という先入観があったものですから。
でも鰹の香りがしっかりしていて、それがまた嬉しい発見でした。
最後は蕎麦湯です。
とろみのあるタイプではなく、さらりとした釜湯。
最近はとろみのある蕎麦湯のお店も増えましたが、老舗はやっぱり釜湯が多いような気がします。
どちらが良いというわけではなく、それぞれの店のやり方なのでしょう。つゆ割りでひと口、それからつゆを飲み切って、蕎麦湯だけでもうひと口。
蕎麦の香りがすっと戻ってくるような感じがして、しみじみとした気持ちになりました。
年末の慌ただしさの中で、こうして老舗の蕎麦屋でゆっくりと過ごせる時間というのは、本当にありがたいものだなあと、帰り道にしみじみ感じました。
【2025年12月訪問】
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「かんだやぶそば」
東京都千代田区神田淡路町2-10
03-3251-0287
【営業時間】
11:30 – 20:30(L.O. 20:00)
【定休日】
水曜日
【食べログ】
https://tabelog.com/tokyo/A1310/A131002/13000334/
